『猫の目 人の目』


土屋 俊一 氏

株式会社前田製作所  代表取締役社長
(本会 理事)

 一年前、我が家に子猫が来た。妻は「生き物は死ぬから。」といっていたが、子供が貰ってきてしまった。部屋の隅でうずくまっている子猫を不憫に思ったか、結局、妻が面倒をみている。トイレを用意し、キャットフードも水も用意した。三日ほどで家族に馴れたがミルクは飲むのに水を飲まない。「贅沢な猫だ。」と思っていたが、妻が台所へ立つとトコトコ付いてきて、洗剤の浮いた洗い水をなめる。「あんたの水はこっちでしょう。」と、水入れのところに連れて行って鼻先に水をつけてやっても飲まない。
 そんなことが続いて、夏、妻が水入れに氷を浮かべてやった。不思議そうに遊んでいたが、融けて無くなってしまうと水入れをひっくり返して底を探していた。そんなことがあって、翌日から水入れの水を飲むようになった。ミルクは見えた、洗剤の浮いた水も見えた、しかし、彼には水入れの水は見えなかった。氷が入ったことでそこに水があることが分かった、ということではないかと納得した。
 お客様の目で見る、相手の立場で考えることが大切だというが、猫相手でさえことほど左様にむずかしいことだと実感した。